親のための認知症対策:「任意後見契約」の提案を拒否されたら

◎家族構成

(1)父親既に死亡

(2)母親(75歳):

①年金8万円+遺族厚生年金4万円=12万円。生活費5万円

②現在健康。介護サービスを利用していない。

③預貯金:

㋐山梨中央銀行500万円

㋑ゆうちょ銀行:300万円

㋒三菱UFJ銀行:300万円

④他の相続財産:

実家:1000万円(時価。土地、建物ともに母親名義)

⑤受取人が長女の生命保険契約(1000万円)。被保険人、契約者は母親。

(3)長女(45歳):

高校卒業後、地元企業に就職。結婚。甲府市内の実家の近くに住んでいる。

子供は高校卒業後就職したので子育て完了。

母親の事が心配で時々様子を見に来ている。

(4)長男(48歳):

東京の大学卒業後。そのまま東京で就職。結婚。子供がまだ中学生で子育て真っ最中。

仕事も家庭も忙しくて中々帰省できない。

◎事例

母親は最近物忘れが少々出てきている。認知症ではないか?、と心配。

そこで、母親の判断能力が低下する前に「認知症対策」を行っておきたい。

考えられる対策として

①代理人カード:山梨中央銀行、ゆうちょ銀行

②予約型代理人・代理人指名:三菱UFJ銀行

③任意後見:実家に近い長女が後見人に。知り合いの弁護士を任意後見監督人に希望。

そこで、母親に上の①~③につき、話をしたところ、①②については「万が一のために、通帳の代理人登録をしておこう」で同意を得る事ができました。

しかし、③については、「自分の財産が乗っ取られる」と思ったのか?、それとも「ボケ扱い」された」のが癪に障ったのか、態度が頑なになり、拒否されました。どうすればよいですか?。

例えば、

「最近ボケてきたんじゃない?」

「認知症になると何もできなくなるよ」

「任意後見をしないと大変なことになるよ」

これらの言葉は母親からすると

「自分は正常と思われていないのではないか?」

「私の財産を奪われてしまうのではないか?」

と思われがちです。

そこで、母親に「元気な内は自分で決めればよい」ことを前提に、「入院したり、自分で手続きするときが大変になったときに、私(長女)が手伝えるようにした方が安心じゃない?」(「見守り契約」を締結)とやんわりと切り出します。

「見守り契約」とは任意後見が始まるまでの間に、支援する方が定期的に本人と電話連絡。

併せて、本人の自宅を訪問して面談することにより、支援する方が、本人の健康状態、生活状況等を確認することによって、任意後見をスタートさせるかどうか判断するための契約をいいます。

ただし、本事例で「見守り契約」の内容を「任意後見契約への移行」を前提としたもの(移行型)にすると、母親の態度を硬化させ「見守り契約」の締結ですらスムーズにいかないことがあります。

そこで、「任意後見契約への移行」を前提としない、独立での「見守り契約」にすることが肝要です。

さらに、必要なら「財産を預けるのではない(管理するのではない)ことを強調しておいた方がよいでしょう。

「見守り契約」の内容ですが、

(1)目的

例:

乙(長女)は、甲(母親)の心身の状況及び生活状況を定期的に把握・確認し、甲が住み慣れた環境で自立した生活を送ることができるよう支援するとともに、将来の任意後見契約への円滑な移行に備えるものとする

(2)見守り業務の内容

①定期連絡:例として「毎週土曜日」

②定期訪問:例として「月2回。原則第二、第四日曜日)

(3)異変時の対応

例:

定期連絡や訪問により、甲の異変(体調不良、認知機能の低下の兆候等)を察知した場合、必要に応じて、親族、医師、ケアマネジャー等へ連絡・対応を行う。

(4)契約期間

例:

1年間。契約満了の1か月前までに、甲乙双方から別段の意思表示が無ければ、同一条件で1年間自動更新

などとします。

「財産管理委任契約」とは本人の判断能力のある間の財産管理に関して委任する契約をいいます。

任意後見人が実際に後見事務を開始できるのは、本人の判断能力が低下して任意後見監督人が選任されてからです。

なので、契約締結後、実際に判断能力が低下するまでの期間は、空白期間となります。

そこで、任意後見契約と組み合わせて「財産管理委任契約」を締結することがあります。

つまり、契約の締結後すぐに「財産管理契約」が発効。

その後本人の判断能力が低下して任意後見監督人が選任された時点で任意後見契約へと移行する形態。
このような契約形態を「移行型」といいます。

任意後見契約とともに財産管理契約を締結する場合、「財産管理委任契約」も公正証書で締結することが一般的です。

もっとも、本事例のこの段階では、母親が頑なに「任意後見契約」を拒否しているので、「見守り契約」の次の段階としての、単体での契約となります。

母親への問いかけ方は「見守り契約」の段階と同じです。

つまり、母親に「元気な内は自分で決めればよい」ことを前提に、「入院したり、自分で手続きするときが大変になったときに、私(長女)が手伝えるようにした方が安心じゃない?」から切り出し、手伝う=イザという時に母親名義の払戻し、預入れ、振込依頼などができるようにしておく、です。

あくまでも、「見守り契約」により、母親の不安が解消し、長女に対する信頼が増した段階で切り出すことが肝要です。

財産管理契約の「代理権目録」の内容ですが、本事例の場合、例えば

1、山梨中央銀行甲府駅前店、ゆうちょ銀行、三菱UFJ銀行新宿支店の委任者名義の預貯金に関する払戻し、預入れ、口座開設、振込依頼、解約、その他すべての取引。

2、生活に必要な送金及び物品の購入等に関する一切の事項。

3、保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に関する一切の事項。

4、医療契約、入院契約、介護契約、施設入所契約その他の福祉サービス利用契約等、委任者の身上監護に関する一切の契約の締結、変更、解除、費用の支払等一切の事項。

5、要介護認定の申請及び認定に対する承認又は審査請求に関する一切の事項

と決めておけばよいでしょう。

「見守り契約」「財産管理契約」を継続することにより、母親が長女に相談することが増えたり、長女が母親の手続きを手伝うことが多くなったり…。

並行して、母親が「自分がお金を管理できなくなったらどうしよう?」と不安を打ち明けるようになったり…。

この段階まできたら、「任意後見契約」を再提案する良き機会です。

話の切り出し方ですが、再度「任意後見」とは、元気なうちに、自分で「この人にお願いする」と決めておく制度だ」とあくまでも、母親が自分で決める制度であることを強調します。

その上で

「任意後見が始まると、任意後見監督人が関与するので、後見人に私(長女)を選んでくれたとしても、私自身がすべて決めるんじゃない」

「任意後見監督人も、お母さんが知り合いの弁護士の先生にお願いするから安心して良いよ」

「ただ、家庭裁判所の手続きがあるから、その辺は先生に確認してみよう」

と母親を安心させる声掛けを続けます。

母親が少しでも前向きな気持ちになったら、後日改めて知り合いの弁護士の先生に「任意後見制度」について、説明してもらうのも一つの方法です。

これに対し、まだまだ、前向きな気持ちにならないのなら、ごり押しせず、「これからも「見守り」は続けるから、必要ならいつでも言って」と、あくまでも「母親本人の意思で決める事」を強調しておきます。

「遺言書の作成」も同じです。

「お母さんが認知症になる前に遺言書を書いておきましょう」と言うのは最悪です。

「母親自身が決める」に話を持っていくことが大切です。

それも、「遺言書」という固い言葉ではなく「お母さんが亡くなった後に、今のお母さんの希望を残しておく方法」など、柔らかめの声掛けをします。

「公正証書遺言」の説明も「お母さんの希望を、公証役場で専門家(公証人)に内容を確認してもらいながら「公正証書遺言」という形で残すこともできるよ」と声掛けすれば、「専門家に確認できること」で安心することが期待できます。

さらに、「遺言書を書く=私(母親)の財産を子供達(長男、長女)に取り上げられる」ではなく、「お母さんの生きている間はお母さんのもの」「遺言書はお母さんが亡くなった後どうするか?、を書いておくものだから」と強調します。

そうすれば、「子供達(長男、長女)が自分(母親)の財産の取り分を要求してくる」などの不安を無くすことができます。

決して、焦らず、徐々に話を進めていきましょう。

投稿者プロフィール

山梨県甲府市にある「あきやま行政書士事務所」
山梨県甲府市にある「あきやま行政書士事務所」行政書士
◎主な業務内容:
相続、終活、墓じまい、遺言書作成、遺言執行、後見、家族信託、ペット法務、アポスティーユ申請手続き代行、国際結婚手続き代行、在留資格「日本人の配偶者等」(配偶者ビザ)申請代行、国際相続手続き相談

山梨県甲府市の行政書士です。
高齢化社会を元気に生きる社会に。
体の不自由なお年寄りが安心して生活出来る社会を作りたい、
困っている方の力になりたい。
皆で応援し、安心して暮らせる社会を作りたい。
そんな願いを胸に日々仕事に従事しています。

当事務所への「お問い合わせ欄」は「こちら」

TEL:055‐215-2201
お気軽にご相談ください。

※電話が繋がらない場合、恐れ入りますが「お問い合わせ」にてお願いします。

Follow me!