介護施設側の「安全配慮義務違反」が免責されるには
1、介護現場で行われている具体的な送迎対策とガイドライン
厚生労働省は、介護現場で行われている、具体的な送迎対策に関するガイドラインを発表しています。
◎要旨
(1)自宅周辺・移動ルートの「環境アセスメント」
単に「自立歩行が可能」という書類上の判断だけでなく、降車場所から玄関までの段差、エレベーターや手すりの有無、雨天時に滑りやすい屋外階段がないかなど、利用者の身体能力と自宅環境をセットで事前に確認します。
(2)「送迎終了の地点」を個別に明確化
契約時やケアプラン作成時に、「どこまで職員が付き添い、見届けるか?。例えば、マンションの1階オートロック前までなのか?。それとも、各住戸の玄関口で家族へ直接引き渡すまでなのか?」について、明確に線引きする。
(3)具体的で客観的な送迎指示
現場の申し送りで「転倒注意」などの抽象的な表現を避け、「階段昇降時は職員が必ず右側に付き、手すりと杖を併用させる」など、誰が担当しても同じ安全確保ができるようマニュアル化・指示を具体化する。
(4)入院・骨折後の再アセスメント
一度決めた送迎方法に固執せず、利用者が転倒したり、入院して筋力が低下したなどの情報を得た場合、即座に送迎方法を見直す体制作りを行う。
※参考:「厚生労働省HP「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」
2、東京地裁2026年9月18日判決
[事案]
デイサービス(通所介護)を利用した87歳の女性が、施設の車で送迎後に自宅アパートの外階段で転倒し死亡。
遺族が安全配慮義務違反に基づく損害賠償の訴えを起こす。
[判決]
東京地裁は「施設側は女性の筋力低下や骨折による入院歴の資料を受け取っていたため、事前に転倒歴などを適切に確認していれば危険を具体的に予測できた」とし、注意義務違反を認めました。
3、介護事務所側の懸念事項
この判決がリーディングケースとなると、介護現場としては、リスクを極端に恐れるあまり、サービスのあり方が消極的になる「防衛的介護」が広がることになります。
(1)過剰な介助:
利用者の自立支援(できる限り自分の力で歩いてもらうことなど)を控え、過剰に手を出してしまう。
(2)受入拒否の発生:
送迎時や自宅周辺の環境にリスクがある高リスクな高齢者の利用を、事業所側が躊躇・拒否するようになる
今後、送迎後のアパートの階段や室内まで付き添うような「過剰な善意の介助」まで義務付けられると、介護人材不足、コスト増に悩む介護業界としては、これ以上業務を回せないとして事業を畳むケースが増えることが懸念されています。
その結果、家族側も仕事を辞めざるを得ない(介護離職)などの「介護難民」危機に拍車がかかることになり、自分達(家族)に跳ね返ってくるリスクが発生します。
4、介護施設が免責に繋がる「拒否時の記録、同意書の残し方」
ただ、「本人が拒否したから、そのまま従った」だけでは施設側の「安全配慮義務」違反とされるケースが多く、免責とはなりません。
裁判において「事業者として最善を尽くした」と認められ、免責となるためには、「拒否時の記録・同意書の残し方」に一工夫必要です。
(1)「説得と危険性の説明」のプロセスを克明に記録しておく
単に介護記録に「利用者が拒否した」と書くだけでは証拠能力が低くなります。
職員がリスクを説明。代替案を提示した家庭を介護記録に残しておきます。
例:
16:30。自宅アパート1階着。
A様より「1人で上がれるから触るな、帰れ」と強い拒否あり。
職員より「本日は雨で外階段が大変滑りやすくなっており、前回のようにバランスを崩されると骨折の危険があります。せめて荷物をお持ちし、後ろから見守らせてください」と3回にわたり提案・説得したが、激しい口調で職員の手を振り払われた。
やむを得ず、一段後ろからいつでも支えられる距離を保ち(密着見守り)、玄関扉が閉まるまで視認した」
(2)拒否が継続する場合の「同意書(確認書)」の取得
特定の介助(例:送迎時に玄関内まで付き添うこと)を本人が拒絶し続ける、もしくは、家族が「そこまでしなくていい」と言う場合、
①事業者
②利用者(本人)
③家族
④ケアマネジャー
の4者でリスクを共有した上で、書面(同意書・確認書)を交わすことが望ましいです。
◎書面に盛り込むべき内容
㋐拒否されている具体的な行為:
例:自宅アパート外階段での職員による身体介助・同行
㋑それによって発生し得る具体的なリスク:
階段からの転落、骨折、頭部打撲による重篤な健康被害の可能性
㋒事業所側の対応・代替案:
職員は1階で見守り、登り切るのを確認する
㋓合意の署名:
本人・家族双方の署名・捺印をもらう。
本人の判断能力に問題がある場合、成年後見人の署名・捺印をもらう。
事業者単独の書類だけでなく、ケアマネジャーに報告。
ケアプランの「本人・家族の意向」や「援助内容」の項目にこの状況を明記してもらいます。
かつ、サービス担当者会議の要録にも残します。
これにより、「事業所が勝手に介助をサボったわけではない」という強力な証拠となり、施設側の安全配慮義務違反が免責される可能性が出てきます。
投稿者プロフィール

- 行政書士
-
◎主な業務内容:
相続、終活、墓じまい、遺言書作成、遺言執行、後見、家族信託、ペット法務、アポスティーユ申請手続き代行、国際結婚手続き代行、在留資格「日本人の配偶者等」(配偶者ビザ)申請代行、国際相続手続き相談
山梨県甲府市の行政書士です。
高齢化社会を元気に生きる社会に。
体の不自由なお年寄りが安心して生活出来る社会を作りたい、
困っている方の力になりたい。
皆で応援し、安心して暮らせる社会を作りたい。
そんな願いを胸に日々仕事に従事しています。
当事務所への「お問い合わせ欄」は「こちら」
TEL:055‐215-2201
お気軽にご相談ください。
※電話が繋がらない場合、恐れ入りますが「お問い合わせ」にてお願いします。
最新の投稿
介護福祉、障害福祉、障害のある子供、親亡き後2026年10月13日介護施設側の「安全配慮義務違反」が免責されるには
ペット2026年10月12日ペット信託:委託者に成年後見人が就任した場合
ペット2026年10月11日ペット信託:委託者(飼い主)認知症に。受託者(金銭管理者)の報告義務は誰に?
家族信託、認知症対策2026年10月10日親のための認知症対策:「任意後見契約」の提案を拒否されたら




