破産手続と労働債権
1、事例
X社は2024年2月末日に、代表者から、破産手続を申し立てることになったので、本日をもって事業を停止、全従業員を即日解雇するとの通知がなされました。
その後、2024年4月1日に破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任されています。
未払給与は、2023年12月分から2024年2月分(給料の締日は毎月末日)までの3か月分です。
2、未払給与
破産法上、従業員の賃金債権については、破産手続開始前3ヶ月の賃金請求権が財団債権となります(破産法第149条1項)
それ以前の賃金請求権については優先的破産債権となります(破産法第98条1項、民法第306条2号)。
「財団債権」とは、破産配当に先立って破産財団から優先的に随時弁済を受けることができる債権のことです。
「優先的破産債権」とは、他の一般の破産債権に優先して破産配当を受けることができる債権のことです。
本件でも、破産手続開始日が2024年4月1日なので、財団債権となるのは、2024年1月1日から同年2月末日までの2024年1月分及び2月分の賃金債権のみです。
2023年12月分の賃金債権は、破産手続開始前3ヶ月より以前の労働の対価として発生したものなので、優先的破産債権としての保護しか与えられません。
3、未払賃金立替払制度
労働者は、独立行政法人労働者健康安全機構が行う「未払賃金立替払制度」によって、賃金債権の立替払いを受けられることがあります。
「未払賃金立替払制度」とは、賃金の支払の確保等に関する法律に基づき、未払賃金の一部(原則として8割)を、政府が事業主(X社)に代わって立替払いをするものです。
◎立替払の要件
①労災保険の適用事業で1年以上事業活動を行っていた事業主に雇用され、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者であること
②裁判所への破産手続開始等の申立日の6か月前の日から2年の間に当該企業を退職していること
③未払賃金額等について、破産管財人等の証明又は労働基準監督署長の確認を受けていること
立替払の対象となる未払賃金は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している定期賃金及び退職手当となります。
◎参考:「未払賃金立替払制度」(厚生労働省HPより)
4、退職金
破産法上、従業員の退職金請求権については、退職前3ヶ月間の給料の総額に相当する部分は財団債権となります(破産法第149条2項)
その余の退職金請求権は優先的破産債権となります(破産法第98条1項、民法306条2号)。
ただし、従業員を保護する趣旨から、退職前3ヶ月間の給料の総額が、破産手続開始前3ヶ月間の給料の総額より少ない場合は、破産手続開始前3ヶ月間の給料総額に相当する部分が財団債権となります(破産法第149条2項の括弧書き)。
上記のように、労働者健康安全機構の未払賃金の立替払い制度は、退職金請求権(退職手当)も対象となります。
ただし、立替払い制度は、労働者の年齢に応じた立替払いの上限額が定まっており、たとえば、退職日の年齢が30歳以上45歳未満の労働者の限度額は220万円です。
未払賃金(退職金+未払給与)の合計額が220万円を超えても、立替払いを受けられる金額は、220万円の8割に相当する176万円に限定されます。
5、解雇予告手当
労働基準法により、使用者が労働者を解雇するには、30日前に予告をしなければなりません。
30日前の予告をしない場合には、使用者は30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません(労働基準法20条)。
本件では即日解雇してますが、この「解雇予告手当」の破産法上の扱いについては、解雇が破産手続開始前に行われた場合には、優先的破産債権にしかなりません。
例外として、破産手続開始後に、破産管財人が解雇をした場合には、財団債権となります(破産法148条1項4号)。
ただ、東京地裁では、解雇予告手当について実質的な給料該当性を認めており、破産手続開始前3ヶ月間に解雇が行われた場合の解雇予告手当については、破産管財人から財団債権として支払う旨の許可申し立てがあれば、財団債権として支払うことを許可するとの運用をしています。
なお、立替払制度の対象となるのは、未払賃金と退職手当の請求権のみであるため、解雇予告手当については、立替払いを受けることはできません。
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