特定財産承継遺言
1、定義
「特定財産承継遺言」とは、特定の遺産を相続人の誰に相続させるかを指定する遺言のことです(民法第1014条2項)。
例えば「土地A、建物を長男に相続させる」のような内容です。
2、特定財産承継遺言のメリット
遺産分割協議を経ることなく財産の名義変更ができる。
例えば、長男が「土地A、建物」を相続した場合、自分名義に変えるのに他の相続人の協力は不要です。
3、特定遺贈との違い
特定財産承継遺言 | 特定遺贈 | |
渡す相手 | 相続人に限定 | 相続人以外でもよい |
受取拒否の方法 | 3カ月以内に相続放棄 | 特に決まっていない。いつでも可能 |
登記手続き | 単独で可能 | 遺言執行者等の協力が必要 |
登記免許税 | 1000分の4 | 原則1000分の20 |
農地法上の手続き | 農業委員会への届出 | 許可 |
賃貸人の承諾 | 不要 | 必要 |
4、特定財産承継遺言作成の際の注意点
(1)財産を明確に特定する
①土地なら所在、地番、地積、地目
②建物なら所在、家屋番号、構造、床面積
これらの情報はその不動産の「全部事項証明書」に書かれてます。全部事項証明書どおりに正確に記載しましょう。
③預金なら金融機関、支店名、普通預金、定期預金等の種別
(2)財産の漏れがないようにする
用心のために、遺言書に「前条までに記載のない財産は、すべて〇〇が相続させる」旨の一文を入れておけばよいです。
(3)遺留分侵害に注意する遺留分を侵害した遺言書も直ちに無効ではないです。
しかし、相続発生後、遺留分を侵害された人から侵害された遺留分に相当する金銭を支払って欲しいと請求される可能性があります(遺留分侵害額請求)
(4)「配偶者居住権」を設定できない
「配偶者居住権」とは、自宅の不動産を「配偶者が亡くなるまで無償で住む権利(配偶者居住権)と「自宅不動産の所有権」とに分けて相続、遺贈したりすることができる制度です。
この配偶者居住権は、遺言書で記載することも可能ですが、その際は「遺贈」によることとされています(民法第1028条)。
5、第三者に対抗するには登記が必要
従来、「相続させる」遺言により相続人が不動産を承継した場合には、登記をすることなく第三者に対抗することができるとされていました。
しかし、第三者からすれば知る由もない諸事情により、後から取り戻されてしまうのはたまったものではありません。
そこで、民法の改正により、「取引の安全」の見地から、法定相続分を超える部分については、たとえ特定財産承継遺言があったとしても登記をしない限り第三者には対抗できないこととされました(民法第899条の2)。
投稿者プロフィール
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