[事例]遺言書の内容を「遺留分権利者」に伝えなければ…
1、事例
◎事例:
㋐両親離婚。親権は母親。
㋑元夫再婚。再婚相手の間に子供が1人。
㋒元夫死亡。相続人は後妻。後妻の子供に「前妻の子供」。
法定相続分は後妻1/2。後妻の子供1/4。「前妻の子供」1/4。
㋓しかし、「前妻の子供」は父親の死亡を知らなかった。
「前妻の子供」の遺留分1/4×1/2=1/8
2、元夫が遺言書を残さなかった場合
元夫が遺言書を残していない場合、相続人である後妻、後妻の子供と「前妻の子供」との遺産分割協議となります。
相続人である「前妻の子供」に連絡しないで遺産分割協議を行った場合、作成した遺産分割協議書は、「前妻の子供」が遺留分を主張する、しないに関係なく(そもそも連絡しなければ、父親の死亡の事実を知らないので主張しないでしょうけど)無効となります。
3、元夫が「自筆証書遺言」を残していた場合
元夫が、後妻と後妻の子供のみに財産分けした「自筆証書遺言」を残していた場合、遺留分に反した遺言書ですが、「遺留分」は相続人が最低限の財産を受け取ることができる「権利」であり、遺言書自体を無効にするものではないので、無効ではありません。
ただ、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。
①この検認手続きの必要書類として「相続人全員の戸籍謄本」があります。
②検認の申立てがあると,相続人に対し,裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知をします。
③また、検認当日、家庭裁判所にて、相続人全員による立ち合いの下、検認手続きが行われます。
つまり、上の事例の場合、「前妻の子供」が父親の死亡の事実を知らないまま、家庭裁判所での検認手続きを進めるのは不可能です。
あくまでも良いか悪いかは別の「理屈」ですが…。
㋐被相続人の父親(元夫)の戸籍から辿って、前妻の子供の存在を把握。
「相続のため」「相続人調査のため」の理由で、市区町村役場で、委任状なしで前妻の子供の戸籍を取得することはできます。
もっとも、後日市区町村役場から前妻の子供に確認の電話がいけば、その時点でバレることになります。
㋑検認当日は申立人以外は必ずしも立ち会わなくてもよいので、前妻の子供が不在でも大丈夫です。
裁判所のHPにも「申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは,各人の判断に任されており,全員がそろわなくても検認手続は行われます」との記載があります。
しかし、家庭裁判所から「前妻の子供」への連絡はどうにもなりません。
※参考:「裁判所HP「遺言書の検認」
4、元夫が「公正証書遺言」を残していた場合
元夫が、後妻と後妻の子供のみに財産分けした「公正証書遺言」の原案を公証人に提出した場合。
「公正証書遺言」作成の必要書類の一つとして「遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本や除籍謄本」があります。
これにより、離婚歴、配偶者氏名が分かります。
上で書いたように、遺留分に反した遺言書も無効ではないので、この事例では元夫の作成した原案がそのまま通った「公正証書遺言」が作成されたとします。
(1)「公正証書遺言」の中で遺言執行者の指定がある場合
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(民法1007条第2項)
このように、遺言執行者には遺言の内容を他の相続人に通知する義務があります。
上の事例の場合、「前妻の子供」にも、です。
連絡しない場合、後日遺言執行者が損害賠償を請求されてしまう可能性があります。
つまり、この時点で「前妻の子供」は父親の死亡を知ることになり、遺留分侵害額請求権を行使することができます。
(2)「公正証書遺言」の中で遺言執行者の指定がない場合
①認知
②推定相続人の廃除
③特定遺贈の実行
については、遺言執行者の指定が必須ですが、そうでなければ、遺言執行者の指定は義務ではありません。
なので、遺言執行者の指定がない場合、上の事例だと、「前妻の子供」に連絡しないで、後妻と後妻の子供で相続手続きを進めることも不可能ではありません。
例えば、三井住友銀行での手続き(遺言書があって遺言執行者がいない場合)での必要書類は
①亡くなった方の戸籍謄本(原本)
②代表者の印鑑登録証明書、実印
③公正証書遺言の謄本の原本
④所定の「相続に関する依頼書」
⑤亡くなった方の通帳、キャッシュカードなど
です。
※参考:「三井住友銀行HP「大切な方が亡くなられたら」
また、2024年4月から「相続登記の義務化」がスタートしましたが、その相続登記(遺言書がある場合)の必要書類は
①公正証書遺言の謄本の原本
②亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本など
③新所有者の戸籍謄本、固定資産課税明細書、住民票
です。
※参考:「法務局HP「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」
5、10年間遺留分の請求を受けずに乗り切れれば‥
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、
①相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。
②相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする
(民法第1048条)
つまり、上の事例の場合、「前妻の子供」が父親の死亡を10年間知らないままで、遺留分侵害額請求権を行使しなければ、遺留分を支払わずに乗り切ることができます。
勿論、その10年間は
㋐何らかの形で「前妻の子供」が戸籍を見て(例:パスポートの申請)父親の死亡を知ってしまうかも
㋑父親の死亡を知れば遺留分侵害額請求権を行使してくるかも
㋒㋑だけじゃなくて、父親の死亡を伝えなかったことに対する損害賠償を請求されるかも、
の「恐れ」と背中合わせです。
バレれば確実に揉めます。
確かに、遺留分の行使は「権利」で「義務」ではありません。
必ずしも相手が遺留分侵害額請求権を行使してくるとは限りません。
しかし、「万が一行使されたら」を考慮すれば、遺留分を支払いたくない「気持ち」を優先するより、法定相続分より少ない遺留分の金銭を支払ってしまった方が、紛争防止のためには良い方法です。
遺留分の金銭を支払う意思を表明する時期ですが、
①遺言書を残していないなら、遺産分割協議の場で
②遺言書を残しているなら、遺言書を見せた上で
の初期の段階の方が良いです。
その場で紛争に発展することが不安なら、専門家を介在させて説明を依頼するのも一つの方法です。
是非ご相談を。
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投稿者プロフィール

- 行政書士
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◎主な業務内容:
相続、終活、墓じまい、遺言書作成、遺言執行、後見、家族信託、ペット法務、民泊、古物商許可、空き家問題、相続土地国庫帰属制度の法務局への相談、申請書作成代行
山梨県甲府市の行政書士です。
高齢化社会を元気に生きる社会に。
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そんな願いを胸に日々仕事に従事しています。
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