成年後見人からの「遺留分侵害額請求権」
1、事例
㋐父親死亡。相続人は妻と長男、次男
㋑生前父親は長男に財産を贈与
㋒他方、生前に父親は「妻に財産を全額贈与させる」旨の遺言書を作成。
長男、次男の遺留分に反しますが、この件について長男、次男は十分納得済。
㋓父親死亡から8年後、長男が交通事故により障害。意思能力を失ってしまいました。
㋔次男の家庭裁判所に対する申し立てにより、長男に成年後見人選任。
㋕成年後見人。母親に対し「遺留分侵害額請求権」を行使しました。
2、成年後見人が「遺留分侵害額請求権」を行使
成年後見人は、本人の財産管理について、善管注意義務を負うため、本人の不利益になることはできません。
なので、成年後見人が遺留分を侵害された相続人の「権利」である「遺留分侵害額請求権」を行使するのは当然です。
「遺留分侵害額請求権」は
①相続開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年
②遺留分侵害を知らなかったとしても、相続開始から10年
経過すれば時効により消滅します。
本事例の場合、相続から8年なので時効により消滅していません。
3、「成年後見人選任申し立て」をしなければ…
本事例では、せっかく被相続人である父親が、揉めないように、生前贈与や遺言書を作成したのに、妻も長男も次男もその件について十分納得済であるにもかかわらず、成年後見人の「遺留分侵害額請求権」の行使により、母親含め、家族の意に反する結果となってしまいました。
㋐「たられば論」で意味ないことですが、仮に子供が交通事故で障害。意思能力を失わなかったら、この「悲劇」は起こらなかった。
㋑相続から10年経過していれば「遺留分侵害額請求権」は時効により消滅していた。
もっとも、最高裁平成26年3月14日判決では「時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は、完成しないと解するのが相当である」と判示しています。
10年経過する前に申立てに基づき後見開始の審判がされれば、成年後見人が遡って「遺留分侵害額請求権」を行使。認められる余地があります。
ならば、長男のために慌てて成年後見人を選任しなければよかった。
成年後見制度は
①家族が親族の就任を希望しても、必ずしも希望が叶うとは限らない
②専門家が就任した場合、毎月ある程度の費用(報酬)がかかる
③一度利用すると死亡するまで止めることができない
など、使い勝手が悪い所がいくつかあります。
本事例のように
④本人の利益を考慮する余り、結果的に家族を不幸せにしてしまう。
融通が利かない部分がある。
もその一つ。
「成年後見制度」の利用は「義務」ではありません。
利用したければいつでも家庭裁判所に利用の申立てはできるので、できれば他に選択がない場合の「最後の手段」としてとっておきたいものです。
使わないで済むに越したことはありません。
「成年後見制度を使わないで障害のある子供の世話をするにはどうすればよいか?」を考えるべきでした。
例えば、将来母親が亡くなっても、生前遺言書を作成しておけば、障害のある長男に成年後見人を付けなくても相続手続きを進めることができます。
「家族の幸せ」についてどうすればよいか?。
お悩みなら専門家に相談を。
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投稿者プロフィール

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◎主な業務内容:
相続、終活、墓じまい、遺言書作成、遺言執行、後見、家族信託、ペット法務、古物商許可、空き家問題、相続土地国庫帰属制度の法務局への相談、申請書作成代行
山梨県甲府市の行政書士です。
高齢化社会を元気に生きる社会に。
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