内縁の妻の居住権
1、最高裁昭和39年10月13日判決
Aさんは婚姻届は提出していないもののBさんと20年ほど2人で暮らしており,事実上の夫婦関係にありました。
BさんはAさんと出会う前に離婚したことがあり,2人の子供がいるということはAさんも聞いていましたが,Aさんはその子供達と会ったことはありませんでした。
Bさん、急病で死亡。葬儀で初めてBさんの子供達と会いましたが,そこで「父とAさんが住んでいた家は私達が相続することになるので,出ていってもらいたい。」と言われてしまいました。出ていかないといけないんでしょうか?
[最高裁判決]
相続人側の明け渡しを求める必要性や内縁の妻が明け渡しをすることによって被る家計上の打撃などを考慮して,相続人から内縁の妻に対する自宅の明渡請求は権利の濫用であり,認められない
また、下級審ですが、内縁の夫と内縁の妻との間で内縁の妻が亡くなるまで無償で自宅を使用させるという合意があったと考えて、自宅を明け渡さなくても良いと判断した裁判例もあります(大阪高裁平成22年10月21日)。
2、令和2年4月1日から「配偶者居住権」が認められる
「配偶者居住権」とは、亡くなった方が所有していた実家等の建物に、亡くなった人の配偶者が住み続けられる権利です。
従来、配偶者が相続によって実家の所有権を獲得しても、他の相続人とのバランス上、預貯金等の相続を諦めざるを得ませんでした。しかし、これでは、住む家は確保できても、生活するのに困ることになります。
「配偶者居住権」は「無償での住居の確保」と「バランスの良い遺産分割」の双方のバランスを考慮した制度といえます。
3、内縁の妻には「配偶者居住権」じゃなくて「所有権」を遺贈する
内縁の妻は、相続権も配偶者居住権も認められません。
なので、仮に上の事例が令和2年4月1日以降だったとしても、「配偶者居住権が認められる」を根拠に内縁の妻に実家に住む権利を与えることはできません。
内縁の妻に引き続き実家に住むことができる環境作りをするには、遺言書で「実家は〇〇(内縁の妻の名前)に遺贈する」(注:遺贈するのは配偶者居住権ではない。「所有権」)旨、遺言書を残せばよい。
もっとも、遺言書を残したとしても、子供たちは納得しないでしょうけど…
4、「遺贈の登記は相続人全員の共同申請」のハードルを越えるには
しかし、この遺言書だけだと「遺贈の登記は相続人全員との共同申請となる」旨のハードルが残る。
通常、相続人である子供等の協力を得ることはできないでしょう。不可能に近い。
裁判で争うにしても、上の昭和39年最高裁判決が配偶者居住権が認められた令和2年以降もそのまま認められるかどうか?、通用するのかどうか?、「権利の濫用」と判事してくれるかどうか?、までは分からない。
その前にかなりの年月がかかる。解決は困難。
そこで、合わせて遺言書で「遺言執行者」を指定しておく。
遺言執行者は単独で遺贈の登記ができる(民法第1012条2項)。登記をするのに相続人との共同申請は必要ない。
加えて、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(第1013条)の規定もある。
遺言執行者がいれば、子供たちもどうすることもできない。
あとは、子供たちの遺留分に十分配慮しさえすれば…。
20年もの間「内縁の妻」のままでいたのは、諸事情、お考えはあったんでしょうけど、お互い独り身なら婚姻届を提出。法律上の夫婦になれば、実家を遺贈しなくても「配偶者居住権」を認めるだけで解決。ここまで回りくどいことをしなくて済んだんですけどね。
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