[事例]知的障害者が相続放棄できる?

㋐父親死亡(母親は既に死亡)。

相続人は

長男(健常者:配偶者、子供がいる)

長女(健常者:配偶者、子供がいる)

次男(知的障害者:配偶者、子供はいない)。

㋑両親は障害のある次男が生活に困らないよう、長男、長女に次男の面倒を見ることを条件に遺言書で多めの財産を相続させました。

㋒遺言書の財産分けは次男の遺留分を害するものでしたが、「家族の幸せ」を第一に考えたものでした。

㋓父親が遺言書を作成したお陰で相続人が遺産分割協議を行う必要はなく、遺産分割協議を行うために次男に成年後見人を付ける必要もありませんでした。

㋔父親の死亡から15年後、父親の兄弟(子供達からしたら叔父)が死亡。叔父には配偶者、子供がいない上に、叔父の親(子供達からすれば祖父母)は既に死亡しているので、叔父の兄弟(子供達からしたら父親)を代襲相続して、長男、長女、次男が相続人に。

㋕叔父は多額の借金を残して死亡したため(プラスの財産よりマイナスの財産の方が圧倒的に多い)、相続放棄をしようと考えています。

健常者の長男、長女が相続放棄をすることに問題はありませんが、知的障害者の次男は相続放棄できる?。

軽度の知的障害者で判断能力があれば相続放棄が可能です。

これに対し、重度の知的障害者や精神障害者で、意思能力や判断能力がない場合、相続放棄をすることができません。

親族が本人に代わって書類を作成。手続きを代行しても、その手続きは無効です。

成年後見人は、本人の財産管理について、善管注意義務を負うため、本人の不利益になることはできません。

本事例の場合、相続放棄をしなければ、多額の借金を相続してしまうことになるので、知的障害者の次男のために家庭裁判所に成年後見の申し立てを行い、成年後見人を選任してもらえば、成年後見人が相続放棄を行うことで借金を免れることができます。

知的障害者の次男のために成年後見人を選任してもらい、叔父の借金を相続しなくて済むようになったとしても、別の大きな問題が…。

父親の相続は、次男の遺留分に反する形で実施されました。

「遺留分侵害額請求権」は

①相続開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年

②遺留分侵害を知らなかったとしても、相続開始から10年

経過すれば時効により消滅します。

しかし、「次男が重度の知的障害者や精神障害者で、父親の死亡時に既に意思能力、事理弁識能力、判断能力がなかったので、時効は進行しない」ことを理由に、次男の成年後見人が、父親の死亡から15年後でも、遡って長男、長女に対し「遺留分侵害額請求権」を行使する恐れがあります。

上にも書いた通り、成年後見人は本人(本事例の場合、次男)の財産管理について、善管注意義務を負うため、成年後見人が遺留分を侵害された相続人の「権利」である「遺留分侵害額請求権」を行使するのは当然のことです。

そうなると、せっかく父親が「家族の幸せ」のために遺言書を作成したのに、すべて無になってしまいます。

成年後見制度を利用せず、次男だけ相続放棄しないと、次男は多額の借金を相続することになります。

しかし、次男に対する障害年金は法律で差押えが禁止されており、かつ、父親の相続時に少額しか相続していないと、債権者が取り立てできる財産はその少額の財産しか存在せず、実質的に相続放棄をしているのと同じ。「無い袖は振れない」状態になります。

長男、長女より障害者の次男の方が先に死亡したら、次男には配偶者、子供がいない上に、両親は既に死亡しているので、相続人は長男、長女となります。

次男が相続した多額の借金を相続しないためには、再び相続放棄する必要があります。

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山梨県甲府市にある「あきやま行政書士事務所」
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