相続人等に対する株式の売渡請求制度
1、譲渡制限株式では対応できないことがある
会社にとって好ましくない者が新たに株主になることを防止するために、特に非公開会社においては、株式に譲渡制限をつけています。株式を譲渡するには会社(株主総会、取締役会等)の承認が必要となります。
しかし、譲渡制限株式は、売買、贈与等の「特定承継」の場合の制度であり、相続、合併等の「一般承継」により株式を取得する場合は対象となりません。
2、相続人等に対する株式の売渡請求
会社は、相続や合併等の一般承継により新たな株主となった相続人等を排除したい場合、株式の売渡請求をすることにより、相続人等からその株式を買い取ることができます(会社法第174条)
相続人等に対する株式の売渡請求をするには、定款に以下のような定めを置くことが必要です。
「当社は、相続その他の一般承継により当社の株式を取得した者に対し、当該株式を当社に売り渡すことを請求することができる」
定款にこのような規定がない会社は、株主総会の特別決議により、定款を変更する必要があります。
◎株主総会の特別決議
会社は、相続人等に対する株式の売渡請求をするには、株主総会の特別決議により、売渡請求をする株式の数、及び売渡請求の相手方の氏名、名称を定めることが必要です(会社法175条1項)。
売渡請求をされる相続人等は、売渡請求をしようとする株主総会決議について、議決権を行使できません(同条2項)。
◎売渡請求
会社は、上記の株主総会特別決議で定めた相手方に対し、売渡請求をする株式の数を明らかにして、売渡請求をします(176条1項、2項)。
◎売買価格の決定
売買価格は、会社と相続人等の間の協議又は会社若しくは相続人等による売買価格決定の申立てを受けた裁判所による決定により定められます(177条1項~4項)。
3、会社オーナー(支配株主)が死亡した場合の事業承継:逆転現象に
本来「相続人等に対する株式の売渡請求」は、会社にとって好ましくない者が相続等の一般承継によって株主となることを阻止する場面を想定して定められました。
しかし、逆に会社オーナー(支配株主)が死亡した場合、その相続人(後継者)に対し、他の株主、取締役が、この売渡請求をすることもできます。
◎具体例
株式会社甲
代表取締役A:65%株式保有(支配株主。すべて譲渡制限株式)
取締役B:35%株式保有
Bが亡くなったら、相続人に株を持たせなくないので、買い取ろう。しかし、Aの方が先に亡くなってしまった。
この場合、株式会社甲はAの相続人Xに対し、売渡請求をすることができます。
この売渡請求を決定する株主総会の特別決議において、売渡請求の相手方であるXは、議決権を行使できません。
Yの賛成により、Xへの売渡請求は可決されてしまいます。
結果、Xから甲社にXの株式はすべて移転、Xは甲社株主から排除されてしまいます。
4、「逆転現象」を防ぐ方法
上の事例でAからXに確実に事業を承継させるには
(1)会社オーナー(支配株主)の株式以外については、相続人等に対する株式の売渡請求の議案について、議決権制限種類株式としておく
売渡請求の相手方であるXは、原則として、売渡請求を決定する株主総会の特別決議において、議決権を行使することができません(175条2項)。
しかし、例外として、相手方である株主以外の株主全部(Y)が、議決権制限種類株式のため、議決権を行使することができない場合、例外的に、Xが議決権を行使することができます(同条項但書)。
(2)会社オーナー(支配株主)の株式を保有するための法人を設立、その法人に支配株主の株式を保有させておく
この方法によれば、Aが亡くなったとしても、相続による承継自体が生じないことになります。
投稿者プロフィール
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