裁判で勝った場合、相手に対して弁護士費用を請求することができる?
1、裁判にかかる費用
(1)訴訟費用
裁判を起こすには、裁判所に費用を納めることが必要です。
これを、「訴訟費用」といいます。
例:訴えを起こす際に必要な収入印紙代、郵便切手代
(2)弁護士費用
2、勝訴すれば、訴訟費用は請求できるが、弁護士費用は請求できない
「訴訟費用」は勝訴すれば相手方に請求することができます。
これに対して、原則として弁護士費用は、裁判で勝訴したとしても請求することができません。
日本では、弁護士費用の敗訴者負担は採用されていません。
理由は、訴訟提起への萎縮効果が懸念されているからです。
消費者被害を訴える消費者訴訟、会社を訴える労働訴訟、医療機関を訴える医療訴訟等、資本力で大きく劣る個人が組織を訴えるような場合、万が一敗訴した場合のリスクが大きくなってしまいます。
裁判で勝負を付ける習慣のない日本では、これ以上訴訟を提起するハードルを上げるべきではない考えに基づいてます。
3、例外:不法行為に基づく損害賠償請求
「わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、
現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。
従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。
そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
最高裁昭和44年2月27日の判決です。
この判例により、損害額の1割を弁護士費用として、相手に請求することが認められています。
4、例外:安全配慮義務違反(労災)に基づく損害賠償請求
「労働者が、就労中の事故等につき、使用者に対し、その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、
不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様、その労働者において、具体的事案に応じ、損害の発生及びその額のみならず、使用者の安全配慮義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照)、
労働者が主張立証すべき事実は、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。
そうすると、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は、労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。」と判示。上の最高裁昭和44年2月27日判決を引用。
最高裁平成24年2月24日判決です。
使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権にも弁護士費用の請求を認めてます。
5、「債務不履行」は否定
「契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり、侵害された権利利益の回復を求めるものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。
また、契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。
加えて、土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は、同契約から一義的に確定するものであって、上記債務の履行を求める請求権は、上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものである。
そうすると、土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。」
最高裁令和3年1月22日判決です。
不法行為に基づく損害賠償請求が、侵害された権利利益の回復を求めるものであるのに対し、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである点を強調。弁護士費用の請求を否定しています。
投稿者プロフィール
-
◎主な業務内容:
相続、終活、墓じまい、遺言書作成、遺言執行、後見、家族信託、ペット法務、民泊、古物商許可、空き家問題、相続土地国庫帰属制度の法務局への相談、申請書作成代行
山梨県甲府市の行政書士です。
高齢化社会を元気に生きる社会に。
体の不自由なお年寄りが安心して生活出来る社会を作りたい、
困っている方の力になりたい。
皆で応援し、安心して暮らせる社会を作りたい。
そんな願いを胸に日々仕事に従事しています。
当事務所への「お問い合わせ欄」は「こちら」
お気軽にご相談下さい。
最新の投稿
- 相続2024年12月22日[事例]予備的遺言と遺言執行者の選任
- 相続2024年12月22日遺言執行者が相続財産を開示しないときは?
- 登録、許認可、契約2024年12月22日医薬品のネット販売(特定販売)
- 登録、許認可、契約2024年12月21日医薬品店舗販売業